根分岐部病変の話
根分岐部病変とは、歯の根が枝分かれしている所に現れる病変です。歯周病が進行していくと現れます。
こんな歯の病気、私には関係ない、と思っていませんか?
でも30歳を過ぎていたら、どこかしらで根分岐部病変がはじまっているかもしれません。
歯周病で歯を抜く一番の原因がこの根分岐部病変です。
くれぐれも気をつけてくださいね
ここでは、病変の進み方と、予防のため気をつけること、そしてもし見つかってしまったらどうすればいいのか、簡単にお話します。
まずは下の奥歯の根分岐部病変の進み方です。
歯周病で、歯の周りの組織が炎症を起こし破壊されてくると、骨は吸収し(=溶け)下方へ下がります。
→「知っているようで知らない歯周病」をご覧ください。
すると、ちょうど歯根の股の部分にあった骨がなくなってくるわけですね。(下の奥歯はほとんどが2本足です。たまに3本足の人もいますよ)
根分岐部病変には、その進行度合いによりⅠ度〜Ⅲ度があります。
歯周病では、歯周ポケットが深くなります。 それは歯ぐきの中に縦(垂直方向)に細菌が入った状態です。
それに対して根分岐部病変は、歯ぐきの中で歯周ポケットが横(水平方向)に深くなり、水平方向に細菌が入った状態です。(イラスト矢印の方向)
炎症が進むにしたがって検査時に、出血と排膿(膿が出る)を認めます。
根分岐部病変は、ほとんどが特に何の自覚症状もなく進行していくんですね。 なので、きちんと検査をしてみたら、根分岐部病変がⅠ度だった、あるいはⅡ度もあった、となってしまうのです。
問題は上の歯の根分岐部病変です!
上の歯の根は3根あります。(たまに4根ある人もいます)ほっぺた側に2根、のど側に1根です。(上下の歯の根の数を変えるなんて、神様の芸は細かいですね)
上の図のようにとっても複雑なので、上図の矢印で示した方向のどこからでも根分岐部病変にかかってしまいやすいのです。
私がこれまで検査をした中で、一番頻度が高かったのは、第一大臼歯の内側の根の、それものど側(↓下イラスト部分)から進行していくものでした。
やはりここが一番磨きづらい場所だからかもしれませんね。なので、ここのブラッシングがとても大切なんですね。
ここの根分岐部病変はⅠ〜Ⅱ度へ進むのが早く、またⅡ度の場合何もしなければ間違いなくⅢ度へと進んでいくでしょう。すると、処置はとても大変で、歯を抜くことになるケースが非常に多いです。
上の大臼歯は3根もあるので、よほど歯周病が進行しなければ歯が揺れ動いたりすることはなく、自分ではほとんど気づきません。 たまに腫れたりとか浮いた感じがするとかの症状はあるようですが、しばらくすると落ちついてきたりして‥‥ 揺れ動いたときには「ん〜、もう抜かないとダメですね〜」ということになってしまうのです。
根分岐部病変の状態はレントゲン写真でわかることもありますが、三次元である歯を診査するので、特別な器具を使い詳しく検査しなければ正確なことはわかりません。ただ、この検査をしてくれる歯医者さんはとても少ないのが現実です。歯周病に力を入れている先生もいるにはいるのですが、残念ながらまだまだ少ない。(3Dレントゲン写真を使えばよくわかりますが、これもなかなか完備されている所は少ないでしょう)
また、咬合性外傷といって、かみ合わせの問題・歯ぎしりやくいしばりなどで、強い力が一部に集中することで歯周組織が破壊されます。これによって、根分岐部病変が発症することもあります。
もし歯周病が進行して根分岐部病変が見つかった場合どうすればよいか?
Ⅰ度・Ⅱ度は、歯みがきの際に気をつけて、定期的に歯科医院にてクリーニングを行えば、それ以上の進行は防げると思います。Ⅱ度・Ⅲ度へと進ませないようにするのです。
→「タフトブラシ」をご覧ください。
ハブラシは分岐部には届かないので、先の細い専用の器具(超音波スケーラーのペリオチップ)で、クリーニングをする必要があります。
歯や歯ぐきの形を少し整えてもらい、磨きやすい状態にすると良い場合もあります。
Ⅲ度も基本的には同じなんですが、歯ぐきが下がっていればそこがトンネル状になっているので、その部分へ歯間ブラシを通す方法もあります。
Ⅲ度まで進んでしまった場合、ふつうの先生は「ま〜使えるまで使いましょう」 とか言って、積極的には治療をしようとはしないでしょう。「早目に抜きましょう」と言う先生もいると思いますよ。
やはり、条件によって、Ⅰ 〜Ⅲ度でも外科処置を行った方が良い場合もあります。ただ、周りの骨の残り具合など、条件が悪いと処置をしたくてもできないこともあるんです。
条件が良ければ、Ⅰ〜Ⅲ度の根分岐部病変に対して、さまざまな材料を使ってトンネル部分を埋める再生療法という方法もあるのです。
→「根分岐部病変|外科処置のいろいろ」
根分岐部病変で歯を抜かないようにするには、きちんと検査をしてくれる歯科医院へ行くのがいちばんです。まずは根分岐部病変の検査、これをしないことには手のうちようがないのですから
「根分岐部病変、もう1つの原因:感染根管」&「オーバーブラッシング」もぜひご覧ください。
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コメント
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まさに今の自分(70才、男)の症状です。
10年以上前に虫歯治療をした下の奥歯(親不知の次の次の歯-この二本は既に抜歯済み)が冷たい水でしみるようになり神経を抜いてもらいました。
根分岐部に薄く黒い陰が写っていて、歯茎を削って下げた上で掃除する必要があるそうです。
取りあえず痛みは感じなくなったので「しばらく様子を見ましょう」と言われていますが、様子を見てるだけでいいのか心配で、いろいろ調べているうちにここにたどり着きました。
他の歯医者さんへ行った方がいいのか悩んでいます。
投稿: Ryutanba | 2013年12月 8日 (日) 10時59分
拝見してみないと詳しいことはわかりませんが、歯茎を少し下げて磨きやすくするのは、根分岐部病変の処置としては良い方法だと思います。
ただ、歯周ポケットの深さ、根分岐部病変の度合いによっては、歯茎を下げないでルートプレーニング(分岐部の周りのクリーニング)をして様子を見ることもできると思われます。その場合、今の歯茎のレベル、歯槽骨のレベル、分岐部の位置との関係等が考慮されます。
先生が「様子を見ましょう」とおっしゃったのは、もしかして根の治療をしたことによりその陰が無くなるかもしれないと判断されたからかもしれません。
根分岐部病変の原因によっても、様子見でいいかそうでないかが分かれます。様子を見る事の良し悪しはこちらでは判断できかねます。
その歯医者さんが歯周病の検査、歯磨き指導などをきちんとしてくれるのであれば、そちらで診ていただいても大丈夫だと思います。そうでなけば、きちんとメインテナンスをしていただける歯科医院を探されることをお勧めします。その奥歯はとても大切な奥歯なので(抜くと、部分入れ歯もしくはインプラント治療となる)是非、大事にしていただきたいと思います。また何かわからないことがありましたらご質問ください。
投稿: Yumi | 2013年12月 8日 (日) 19時58分
度々、こちらのブログを拝見させていただいていました。
とても勉強になります。
私は就寝時に食いしばりをしてしまう癖があるのですが、特に対策もせずここまできてしまいました。
ある日鏡で奥歯を見たら、前から6番目の奥歯の頬側に歯の股の部分が見えてきてしまいました。
33歳にしてこのようになってしまい、とてもショックでした。。。
かかりつけの歯科医院では、「ちゃんと磨けてるから大丈夫」と言われて、特に何の処置もアドバイスもされませんでした。
できるだけこの歯を長く使いたいのですが、そのためにできることは、マウスピースをつけること以外に何かありますでしょうか?
投稿: あき | 2014年12月 5日 (金) 21時13分
コメントありがとうございます。
まずは、くいしばりの癖を改善してみましょう。
寝る前に口周りをリラックスさせ微笑みの口元にします。(唇は閉じる)その際、上下の歯と歯が離れていることを確認し、頭にインプットさせます。
そして「今日から(今日も)くいしばらない。」と唱え就寝します。
この方法は〝自己暗示法〟といってとても効果のある方法なんです。→マウスピースがいらなくなるかもしれません!
あともう1つは磨き方です。
多分、元からそこの歯ぐきと歯槽骨の厚みが薄かったのだと思います。女性ではとても多いです。
頬粘膜におされブラッシング時も圧がかかりやすいので、そこはなるべく力を入れずにやさしく磨いてくださいね。
ところで、根分岐部の水平ポケットはあるのでしょうか?垂直的ポケットはだいじょうぶですか?
いろいろ気になりますが、かかりつけの先生が大丈夫とおっしゃるのでしたら、炎症症状などはないのでしょうね。根分岐部が少し出ていても炎症症状がなければ、それほど心配されなくても大丈夫です! お大事にどうぞ。
投稿: Yumi | 2014年12月 6日 (土) 17時28分
優しくわかりやすいアドバイスありがとうございます。
ずっと悩んで落ち込んでいたのですが、Yumiさんのお言葉で元気が出てきました!
今日から早速″自己暗示法″やってみます。
私の通っている歯科医院では歯科衛生士さんに会ったことがなく(私が通院の日にいないだけかも…)、歯のお掃除は先生にしてもらっていて、歯のお手入れ方法などを詳しく教えてもらったことがないのです…。
Yumiさんのような方のいらっしゃる歯科医院に通えてたらなぁ、と思います(>_<)
根分岐部の水平ポケットについてですが、股のすぐ上の部分と歯茎の表面がほぼ接しているような状態で、うっすらと中の空洞が透けているような感じです。
垂直的ポケットもよくわからない状態です。
なので、歯ブラシの毛が空洞の中に入りにくくなっています。
炎症は今のところしていないようです。
説明が下手ですみません(>_<)
投稿: あき | 2014年12月 6日 (土) 23時34分
根分岐部の水平ポケットについてですが、股のすぐ上の部分と歯茎の表面がほぼ接しているような状態で、うっすらと中に空洞が透けているような感じです。
垂直的ポケットはほぼないと思われます。
なので、歯ブラシの毛が空洞の中に入りにくい状態です。
炎症症状は今のところ起きていないようです。
説明が下手ですみません(>_<)
投稿: あき | 2014年12月 6日 (土) 23時42分
詳しい状況を教えていただき有難うございます。
そのような状態でしたら、根分岐部へは歯ブラシの毛先を無理に入れようとしなくていいですよ。
将来的にもう少し歯ぐきが下がり分岐部が露出してきたら、タフトSまたはラピス歯間クリーナーなどで優しくクリーニングしてみてください。歯間ブラシは無理に入れないほうがいいと思います。
〝自己暗示法〟ぜひ続けてみてくださいね!成功したらお知らせくださいね! ではお大事にどうぞ。
投稿: Yumi | 2014年12月 7日 (日) 17時01分
たくさん質問をさせていただいた上に、それに対して丁寧にお答えいただき、本当にありがとうございます。
不安な気持ちが緩和されました!
″自己暗示法″は、今のところ寝ている時に食いしばりに気づくと目を覚ますような状態で、まだまだうまくできませんが、マスターしたらご報告させていただきます!
本当にありがとうございます!!
投稿: あき | 2014年12月 8日 (月) 10時27分