
本当はどっち?歯を磨くタイミング!
これまで「食後はなるべく早く歯を磨いた方が虫歯予防には良い」と言われてきました。
しかし2年程前にTVで紹介されていたのは、それとは全く逆で「食後すぐに歯を磨いてはいけない」というものでした。
- 食事には、酸性のものが多く含まれている。
- 象牙質は酸に弱く、食事の直後は「軟らかく」なっている。
- そこを歯ブラシでゴシゴシこすると、削れてしまう可能性がある。
- 食後少し時間をおくと、唾液が酸を中和し、象牙質はカルシウムを供給され硬さを取り戻す。目安はおよそ1時間。
このように言われると「なるほど~!」と思わずにいられません。
果たしてこれは本当でしょうか?
その答えは、実は「場合による」のです。
人それぞれ口の中の環境は違います。大きく分けて4タイプあります。
1.虫歯(カリエス)リスクの高い人
2.歯周病リスクの高い人
3.両方のリスクが高い人
4.両方のリスクが低い人
これらは、歯の質、唾液の質と量、生活習慣(食習慣やブラッシング習慣)、健康状態などにより決まります。
それぞれのタイプの歯磨きのタイミングは?
1. カリエスリスクの高い人
カリエスリスクの高い人とは、虫歯(初期虫歯も含む)がたくさんある人、またはすでに治療をした歯がたくさんある人のことです。
虫歯の多さは、唾液の量や性質が優れていないことによる結果であると充分に考えられるのです。
そのような口の環境で30分間ブラッシングしないと歯は脱灰されるままになり、唾液による再石灰化もままならないとなると、新しい虫歯や二次カリエスが増えてしまうことが心配されます。(脱灰・再石灰化については下記参照)
ですので、カリエスリスクの高い人は、食後は洗口や水を飲むことにより口の中を早めに中性に戻してあげて、フロスなどで歯と歯の間のお掃除をし、歯磨き粉をつけずにやさしくブラッシングをされると良いでしょう。
強い力でゴシゴシ磨かなくても1日以内ならばプラークは落とせますよ。
2. 歯周病のリスクが高い人
虫歯の少ない人でしたら、歯磨きは食事から30分後でも1時間後でもいいと思います。
歯周病予防には、少なくとも1日1回は丁寧なブラッシングを行うことが重要です。
ただし、朝と夜の2回は歯磨きをされることをおすすめします。
起床時は、一番お口の中の細菌数が多い状態です。就寝中は唾液がほとんど出ないので細菌が増えやすいのです。
なので就寝前、細菌が増殖する元となるプラークをできるだけ少なくしておきたいのです。
3. 虫歯、歯周病両方のリスクが高い人
毎食後に早目の洗口かブラッシングを行ってください。内1回はより丁寧なブラッシングを心がけていただきたいと思います。
4. 虫歯、歯周病両方のリスクが低い人
朝食後(すぐでも30分後でもどちらでも)と、夕食後か就寝前の1日2回のブラッシングを。
脱灰とは・再石灰化とは
歯垢(プラーク)中のphは、食後5~10分で急激に低下(=酸性になる)、その後30~60分かけてゆっくり回復してきます。
なので「phが低下する前である食後3~5分以内に歯磨きをする」のが、虫歯予防には理想であるといわれてきました。これは酸を産生する細菌を取り除くとともに、その栄養分となる食品中の糖を取り除くことを目的としています。
ステファンカーブという有名なグラフがあります。砂糖水でうがいをした時の歯垢中のphを表したものです。

口の中は普段、ph6.8でほぼ中性です。飲食後、細菌が食物中の糖分を分解し酸を出すことにより、2~3分でph4.5~5.5くらいの酸性になってしまいます。
口の中が酸性になることによって歯の成分のカルシウムやリンが溶け出すことを、脱灰といいますね。エナメル質は、ph5.5で溶け出します。
歯が溶ける時間帯がしばらく続き、20分後くらいからphが回復していきます。元のphに戻る(再石灰化)には、30~40分かかるのです。
時間の幅は、食品中の糖分や粘着度の違いによります。糖分が多いほどphの低下は急になり、歯にくっつきやすいものほど長く低下が続くんですね。
ここでもうひとつ、酸蝕症というものがあります。
清涼飲料水、スポーツドリンク、ワイン、酢、レモンやみかんなどの柑橘類を多く取ることにより歯が侵食される(溶ける)ことをいいます。そして歯に穴が開いたり、しみたりなどの症状が出てくるんですね。
確かに、これらを摂ったすぐ後にゴシゴシ強い力でブラッシングすると、歯は削れてしまいます。
ですので酸性度の高い飲食物を摂った後は、うがいをするか水やお茶を飲む、歯の間にはさまった柑橘類などはフロスを通して取り除くと良いでしょう。
この場合、歯磨きは30分以上経ってから行うと良いと思います。
冒頭で述べたTVの内容は、この酸蝕症の実験に基づいたものでした。
酸性炭酸飲料に90秒間浸しておいた象牙質歯片を口の中に入れて、異なったタイミングでブラッシングを行ったところ、
- 30分経たずに歯を磨いた人の象牙質は腐食(侵食?)が確認された。特に、20分以内に磨いた人の腐食は著しく増加していた。
- 30分もしくは1時間経過してから磨いた人たちには、ほとんど腐食がみられなかった。
これは、予め脆くした歯を、
- 唾液の成分で修復(再石灰化)されてから磨く
→ 歯にダメージはない。
- 再石灰化されていない状態で歯を磨く
→ 歯にダメージがある。
というもので、なんだかあたりまえの実験のような気がしました。
エナメル質が著しく溶けている酸蝕症の方には、
食品の酸のとりすぎで歯が溶けること、
食後はうがいをするか、水を飲むこと、
歯磨きは暫く経ってから行うこと等を指導してきました。
しかし、極端な酸蝕症の人以外は、柑橘類や炭酸飲料を飲食したとしても、ある程度は唾液で中和され、すぐに歯が溶け出すことはないので、それほど心配しなくても大丈夫なのです。
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